354 日本人の美しさ
司馬遼太郎は日本人の美しさは滅私奉公にあるという。武士に代表される。東日本大地震の時に被災者たちは水や食料を受け取るために黙々と行列した。こんなことは外国では考えられないらしい。外国では、無政府状態になり、略奪や暴行が横行する。それが当たり前という。ドナルド・キーンは、その行列を見て、日本人の心の美しさに惚(ほ)れ直し、日本に帰化した。
さて、滅私奉公は、「公(おおやけ)」の美しさをつくる一方で、「私(わたくし)」の内には大きな傷をつくる。そんな時代が長い間続いた。自由な恋愛は為しがたく、好きな人の子供を産むことができない。親の決めた結婚をした。女性は夫の家に嫁入りする。舅(しゅうと)姑(しゅうとめ)の気に入るような生き方を強いられる。女性残酷物語。「私」は殺され、子供への自然な愛情は湧きにくく妨げられる。そのようにして、愛情不足で育った子供は、心に傷を抱えたまま大人になり、また、同じような生き方を強いられる。そうして、さらに愛情不足の子供を産む。世代間伝達。心の傷が親から子へ強化されて伝達される。
そして多くの世代を経ると、心の傷が強化、固定化され、心の中は「公」の意識が肥大し、「私」の意識が委縮し尽くす。心はいつも何か窮屈(きゅうくつ)で、しかし、ダメなものはダメと世間体が優先され、本音を尋ねられても良くわからない。
やがて窮屈な心がトラブルを得て、カウンセリングなどを受けると、心の傷を見ることになり、背後には母親の傷を見ることになり、その背後には祖母の心の傷を見ることになる。心の傷の世代間伝達が現れてくる。
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