347 これこそがそれ

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生を受けたときから愛されなかった。産みの親から愛されなかった。この世から存在を拒否された感じがした。あまりに辛すぎた。そのことは忘れるようになった。思い出さなくなった。閉じた。代わりに頑張った。とにかく努力した。勉強か仕事か、自分ができるものに、持てる力の全部を投入した。なぜそんなに頑張るのかと言われても、分からなかった。今思えば、まるで、この世に存在していてもいいという許可を手に入れるための業(わざ)のようだった。
しかし歯車は狂っていた。人間性をだんだん失っていった。幸せな人生は手に入らない。トラブルの連続になった。追いつめられるようになった。何がまずかったのだろう。自分のどこがいけないのか。自分探しをするようになった。
ベビーブレスを開始した。自分の中で凍っていた感情が少しずつ解け出してきた。昔の記憶も少しずつ戻った。愛されなかった悲しみや怒りを認識でき表現できるようになった。改善が起き自分の人生を取り戻している実感があった。
でも何かが足りない感じがした。何か突破できないものがある感じがした。産みの親の愛情が欲しかった。恨んでも恨みきれない。望んでも永久に手に入らない。でも望みは捨てられそうにはない。挟み撃ちに合う。堂々巡り(めぐり)になる。愛されないことで得た死を受け入れることはできない。死と対峙(たいじ)する勇気がない。
あるベビーブレスの中で何かがわかった。はじけた。これだ。そしてエネルギーが溢れ、体中が熱くなった。そうだったんだ。望む気持ちは一切変わらない。ますます激しい。これこそがそれ。親に愛する能力はない。それは構わない。手に入らないものは手に入らない。もう欲しくはない。手に入らずに死があるとすれば死の深みこそ自分のもの。命は母親にくれてやろう。望む気持ちこそは命にも代えがたい宝。誰も汚(けが)せえない。自分を形作るエネルギー。永遠に消えない、かけがえのないもの。この気持に母親はいらない。対象はない。いいえ、この世全体が対象、宇宙全体が対象。宇宙は自分。自分は宇宙。

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