ケース研究
アコールのカウンセラーによるメッセージ、ケース研究や活動記事です。小冊子に投稿した記事を対談形式に転載しています。
アコールのカウンセラーによるメッセージ、ケース研究や活動記事です。小冊子に投稿した記事を対談形式に転載しています。
林 : 今日は自分の話というよりは、娘の尚枝の話をしたいんです。彼女は私に貰われた子供であり、産みの親に育てられなかったことから、胎児期の傷があることは当然に予想していたんですが、今回、うまくその傷を私たち親子ともども認識することができた事件があったんです。きっかけは、私が彼女を本気で叩いたことでした。
雲泥 : どんな事件があったんですか。
林 : 彼女は中学生になり、最近、ツッパリとか白けとかをやっていたんです。学校だけでなく、家の中でもツッパってチャラチャラしていました。表面的に見れば、思春期特有のものという見方もできますが、彼女の根はもっと深いのです。
雲泥 : 説明して下さい。
林 : 彼女がそうなったのは、私の側のことももちろんあると思います。私は、彼女がかわいくて仕方がありませんでした。尚枝のためなら何でもするぞという思いもありました。自分の淋しさの反動で育ててきたという面があります。しかし、その奥の本当の原因には、彼女の胎児期の傷というもっと深い大きな問題が隠れているのです。
雲泥 : 思秋期一般のツッパリとか白けでは済まないようなものが感じられたのですね。
林 : そうです。尚枝は、ケラケラ笑ったかと思うと急に静かーになったり・・・、自分が舞い上がっていることにさえ気が付かないような・・・。なんか尚枝じゃない、気持ち悪い、変な感じがしていました。
雲泥 : 叩いてしまった事件のことを具体的に話して下さい。
林 : 彼女の変な感じは、前々から捨ててはおけない、と思っていました。しかし、根が深いので、彼女自身の一生の問題でもあるし、あせって急には事を進めれないぞという思いもありました。
雲泥 : そうです、簡単には行かないですよね。
林 : あるとき、尚枝にそのことで話をしようと思い、彼女の部屋へはいっていきました。すると目の前に彼女の数学の問題用紙がありました。彼女の不得意な数学の話になりました。その時は、彼女は定期テストで数学の成績がひどく悪かったのです。
「どこが分からないの」「基本的なことが分かっていないね」「分かっていないことが分かっていない」「分かったふりしていないか」
ところが、彼女は平気な感じがありました。本来の彼女だったら大変に落ち込んでいるはずなのに、落ち込まない、軽ーい感じでした。
「そうかもしんない」
白けた感じです。本当の彼女ではありません。
「そんなことないでしょう。死ぬほど心配だったでしょう。」
「気にしてないもん」
らちがあきません。
雲泥 : 林さんも尚枝ちゃんに対しては、悪戦苦闘する普通のお母さんに戻るのでしょうか・・・、いや、先を続けて下さい。
林 : 彼女のなかの不安が手に取るように分かります。いくら勉強して時間かけても成績あげるのは無理じゃないか。みんなに置いて行かれるのがただただ不安なんです。みんなに追いつくことが問題。数学が分かっているのかどうかが問題じゃないんです。
雲泥 : 平気なふりして、本当は心の中で悲鳴を上げているんですね。
林 : そう。尚枝は、悩まないはずがないんです。本来はまじめな子で、頭が悪い感じではない。ところが時間をかけて勉強する割には点数が悪いんです。何ヶ月か前には、本人が懇願するので家庭教師をつけました。それほど本人は悩んでいたんです。でも家庭教師をつけても成績は思ったようには上がりません。今は、悩んでいることも隠して、ただツッパってごまかす感じでした。
雲泥 : 懸命に頑張ってもどうにもならないので、ごまかすしか手段がないのですね。
林 : 尚枝は、不安感情が強いことは分かっていました。胎児期の傷があるから勉強に集中できないのは分かっていました。それがここのところ特にひどくなっていました。フワフワしている、落ち着きがない感じです。そして、自分のことが分かってない感じ、自分の本音を言っていない感じに腹が立ったんです。
雲泥 : その本音を言わないと言うところ辺からじわじわと腹が立っていたんですね。
林 : そう。その後、たまたま私の兄の話になりました。高萩のおじちゃん(私の兄)が今回5年目の検診した結果、ガンは再発してないという電話が、その日にあって、検診結果を心配していた家族はホット安心したはずでした。ところが彼女は、「あの人は死なないよ。・・・どうせ人は死ぬから。」
どうでもいいという感じ、白けた態度。
林 : 私が切れた。とっさに手が出ていた。バンバンとブッ叩いた。
「ホントにそう思っているのか!そう思っているんだったら、も一回言え!」
雲泥 : やっちまいましたね。
林 : やってしまいました。そしたら、彼女が開いたんです。自分の実状を話したんです。堰を切ったように泣き出して
「死んじゃ嫌だ!」
「どうしてお前は、自分の本音が分からなくなるまで、チャラチャラしているんだ!なんでツッパってんだ!おまえは変だ!」
「自分でも変なんだよ!泣けないし本当には笑えないんだ!自分でもどうなっているのか分からないんだよ!」
「今泣いているじゃないか!」
「でも何で泣いているか分からない!ただ泣けるんだ!」
雲泥 : 前回は、尚枝ちゃんが本音を言わずにツッパリとか白けをやっていることに対して、ついに切れてしまった林さんが、彼女を叩いてしまったところまででしたね。
林 : そうです。彼女に対する私の怒りは続きます。
「なぜ自分の気持ちをチャンと観ないんだ、隠すな!ごまかすな!誰をごまかそうとするんだ。ごまかさなくていい。なぜ学校の点数が悪くても落ち込まずにチャラチャラとごまかすんだ!」
私の怒りは、止まらない。
「お前なんか人間じゃない!人間のぬいぐるみを着ている動物だ!うそつき!死んじまえ!」
床に座って話していたんですが、たまたま手に、そこにあったスリッパが触った。そのスリッパをひっつかんでぶん殴っていた。ものすごい怒りでした。始めてでした。普通に考えると、とんでもないことです。言ってはいけない禁句ばかり。自分の固着が出て怒っているんです。自分の怒りに火がついたんです。まるで母親の家庭内暴力です。自分の傷と尚枝の傷のぶつかり合いでした。
雲泥 : 林さん自身の傷(固着)に尚枝ちゃんの何かが触って、林さんの激しい怒りを呼んだということですね。
林 : そうです。
雲泥 : そのことは後で話をして下さいね。
林 : はい、とりあえず今は尚枝の話ですからね。
雲泥 : それと、こんな赤裸々な話をすると、やっぱりベビーブレスは危険だとか何とか言い始める人がいるのではないかと、心配になりませんか。ただでさえ、虹の購読者の中では理解者が少ないのに。
林 : そんなの関係ないですね。なるほど、私は本気になって怒りました。まるっきりの憎悪でした。(尚枝を)かわいいのなんのという気持は、どっかに吹っ飛んでいました。自分でスゲーと思っていました。本音の本音、魂の触れ合いでした。
雲泥 : そしたら開いた。
林 : 開いた。
雲泥 : 尚枝ちゃんもすごいね。応じるんだね。母親の仕事を、本音を言うセミナーを、見聞きして耳学問で学んでいるせいかも知れませんね。で、彼女は何と言いました。
林 : 「ツッパってないと怖くて立ってられないの!」
彼女は泣きながら本音を言いました。
「立ってられないのなら倒れろ!」
雲泥 : 「正直にいろ」という意味ですね。
林 : そうです。彼女は言いました。
「一人でいると落ち込むの!手首にカミソリの刃をあてるんだ、今まで3回!」
このときに始めて聞きました。
「死にたくなる理由があるはずだ、チャンと正直に落ち込め!(そんなときは)なんでお母さんを呼ばないんだ」
「呼んだらどうなる!」
「刺してやる!本当に死にたいのなら手伝ってヤルー!!」
「ヤダー!!そんなの怖くてできない!」
彼女は、本当に死にたいというわけではないんです。死の誘惑から逃げるには血と痛みが必要なんです。でも、間違って死ぬことがあります。
雲泥 : 彼女のように胎児期のような深い傷を持っていると、そうなりますね。
林 : それから彼女は、不良の子供達が怖くて、その恐怖を隠すためにツッパっているという認識だったのですが、本音を言いました。
「ツッパリの不良だけでなく、普通の堂々としている子も怖いんだ!」
雲泥 : ふー。
林 : 尚枝は、「お母さん、もう一つあるのよ!」どんどん開いた。「チャラチャラしていないと、変なことを言って『おかしな尚枝ちゃん』と言われても、目立って注目を集めていないと、寂しくていられないんだ!」
尚枝は、『怖くて、寂しい』まさしく彼女の中にあるであろう2つのポイントを出してきました。彼女の固着の大もとです。
せっかく出てきた、この大もとを十分に消化する必要があります。機会を逃がす手はありません。その時、外は雨が降っていて、既に夜で暗くなってました。「行くよ」
尚枝を連れて自転車でカウンセリング室のブレスルームに直行しました。
雲泥 : どうでした?
林 : 彼女の根元的な怒りを出しました。
「あげちゃうなら産むな!」「産んだら育てろ!」「育てないんなら殺せ!」産みの母親に対してであり、私自身に対しての怒りもあったのかもしれません。
雲泥 : うーん。
林 : 毎月、彼女はベビーブレスをやることになっています。その月の予定は、その事件があってから3日目でした。事件後、2回目のベビーブレスです。
「今日は楽しみ」と彼女は言いました。
雲泥 : 今度はどんなでしたか。
林 : 3日前の怒りと怨みとは反対の方向、つまり光(感謝)の方向に行きました。
雲泥 : なるほど。
雲泥 : 前回は尚枝ちゃんを叩いた事件の後に行った一回目のベビーブレスでは、彼女は怒りと怨みに行きつき、2回目のベビーブレスでは、それとは反対の方向、つまり光(感謝)の方向に行きました。
林 : その2回目のベビーブレスでは、彼女の話によると、胎児期から下に永遠に続くような階段(注:ベビーブレスでは胎児期まで戻るときにオーソドックスな階段のイメージを使うことがある)があり、そこを行くと過去を観る部屋があって、自分の過去の写真やビデオがあったそうです。さらに、横に続く階段があって、そこを行くと見渡す限りの草原がありました。風が吹いていて気持ちよかったので、そこでしばらく眠りました。この階段は後で模様まで思い出せたようです。また上にも階段が延びており、そこに部屋があった。中には光の柱が何本も立っており、女の人の声だけ聞こえてきて「ママ(林)が全部知っているから安心して生きて行きなさい」と言ったそうです。
雲泥 : ユング的ですね。
林 : グレートマザーか、光の天使かどうか知らないけれど。
その後、私の膝にしがみついて「ママーありがとう」といって泣いたんです。彼女は、この2つのベビーブレスで、自分のアンビバレンツ(両価性)を味わいました。なんでこんな女(林)に会ったんだろうという憎しみ、それとこの人(林)に育てて貰って命を助けて貰ったという感謝、ですね。アンビバレンツを観れて彼女は本当によかったと思います。
雲泥 : 中学1年生でもやってのけるんですね。
林 : その後、事件後の3回目のブレスを1ヶ月後にやりました。
「今日はやりたくないな。入れないかも知れない。」
と言ってました。呼吸が浅く、ちょっと呼吸しては
「ハアーハアー、怖い、怖い」
と震えて泣いていました。恐怖に入ったんです。怖くて、本当にベビーブレスに入ったという感じは無かったようです。
雲泥 : なるほど。アンビバレンツの先が、この根元的な恐怖ですね。
林 : そうなんです。ベビーブレスの後半で癒しとして行っている胎児期と宇宙へのへのリードが、彼女は好きなんです。このときも、胎児期と宇宙のところで死んだように長い間眠りました。終わった後で、感想を聞くと、
「怖かった」
「どんな恐怖だった?」
「捨てられる恐怖」
産みの親から捨てられる恐怖です。彼女は、胎生4ヶ月の時に産みの親から林へ貰われることが決まりました。貰われる、つまり産みの親からは捨てられる、ということです。しかも、産みの親の心は荒れていました。親との関係が悪かったし、妊娠相手の恋人とは別れることになりました。とても胎児へ十分な愛情が期待される状況ではありませんでした。『捨てられる恐怖』はまさにピッタリなのです。
雲泥 : 胎生4ヶ月の傷とは、・・・深いですね。
林 : 尚枝は言いました。
「(今回のベビーブレスには)入れなかった」
「入れなくても(その大もとの恐怖を)観ようとしていれば必ず良くなるからね」
と私は言いました。その直後から、尚枝の状態は、本当にいい感じです。白けやツッパリが陰をひそめました。素直になったんです。
「頑張っていると(ツッパっていると)自分でいられない、疲れる」
と自分の気持ちを正直に言うようになりました。
おかげで私は「頑張らないでいる勇気を持ちな。自分自身で居な」「今日はしゃべらないでいてごらん」などとアドバイスすることができます。
「今日は楽だった」
尚枝は自分自身が楽ーな感じなんです。学校へ行くときに
「いってきまーす」
という感じが素直な感じなんです。それまでは、まるで今から戦場に行って来るぞと言う感じでした。ぶすらーとした感じでした。今は、自分に素直な感じです。もっとも、そのうち、またおかしくなることもあるだろうけれど、今回大きな山を越えたので、今後かなり楽になると思います。
不思議なことに、尚枝との親子の関係は、今までより心が通じ合える感覚になってきました。
雲泥 : 本音と本音とがぶつかり合うというのはそういうことなんですね。通じるんですよね。それにしても、尚枝ちゃんは中学生で、よく、ベビーブレスで自分の傷を掘り下げましたね。やりましたねー。大人でも大変なのに。
林 : (胎児期や幼児期などの)古い傷が、思春期にかき混ぜられて出てくると言われますが、まさにその通りのように思えます。尚枝の場合も、1才の頃の激しい夜泣きを思い出すと、あれは胎児期の恐怖をやってたのではないかと、それが今になって、のっぴきならない形で出てきていると思うのです。
雲泥 : 尚枝ちゃんを叩いた林さんの激しい憎悪は、尚枝ちゃんが本音を言わないことに対するもので、実は林さん自身の固着(傷)からくるものだと言うことですが、今、説明してもらてもいいですか。
林 : はい。私の憎悪は、母親が本音を隠して私を育て、そのことが実は私を深く傷つけていたことに、近年気づいたところから湧き起こってくることです。既に母親のことは「毒入り饅頭」ということでこの「アコールつうしん」に載せました。母親は、私が産まれるとき、本当は男の子が欲しかったのに、そんな本音は隠していました。騙され、ごまかされている感じです。母親の意向を受けて私は自分の女性性を犠牲にして男に負けないように頑張って人生を生きることを選んでしまいましたが、おかげで、その選んだことに気が付くことができませんでした。
林 : 母親だって(幼くして養子に)貰われてきて、その傷のために死にたい感じがあるのに、その本音を隠して、何でもいいふうに思って生きていく、そんな深い傷は観ないでいい人をやって生きていく、という感じでした。
あるとき母親は、私が生後二ヶ月の時に、他人の赤ちゃんにお乳をあげました(「貰い乳」をしてあげたのです)。そのことが私には深く傷となって残っているのが最近分かってきたのですが、それは母親には本当には私を大事に思っていないという本音があるらしいことを知っていたからでした。そのことがわかってくるにつけ、母親はいい人をやって、その挙げ句に私を捨てる感じがあったことが分かってきました。その捨てられることが、自分の中に今も時々現れる深い落ち込みに直接に関係していることが、分かってきたのです。そういうことで、今、すごく腹が立っているのです。私はその傷の消化の最中なのです。私を懸命に育ててくれた、今は亡い母親を「うそつき」
となじる必要があります。このところを十分にやらなくてはいけないのです。
その最中に、尚枝が本音を隠すようなツッパリと白けをやったのです。そのことをきっかけとして、私の怒りが爆発したのです。
「カミソリを3回も当てたのに、なにが『楽しくて明るい尚枝ちゃん』なものか!そんなんではないはずだ!」
ということです。
雲泥 : 本音を隠して生きることは、林さんを傷つけ、母親自身も傷つけたはずなのに、今度は、もっとも大切な尚枝ちゃんがやろうとしている、ということで怒りに火がついた。
林 : ベビーブレスなんかやるから寝た子を起こすように悪いものが出て来るのじゃないかという人がいますが、がっかりします。もちろん、ある意味では、その通りです。ベビーブレスなどやらずに、傷も隠したまま、本音と無縁に生きることも可能です。しかし、ベビーブレスをやるのは、はっきり自分の傷を認識して、その傷が治癒するのを促進するためです。例えば、尚枝がそのまま自分の傷を隠していたら、そのうち成長して大人になり、もはや隠せない状態で出て来れば、分裂でも何でも起きる感じがするのです。それこそ危ない。だから「寝た子を起こす」の意見は間違っていますし、腹が立ちます。
雲泥 : 今回の事件でも、結局は本音を通して、尚枝ちゃんは自分の傷を認識し、掘り下げることができ、親子の関係は以前に増して良くなったのですからね。
林 : 今回は自分の本音が分からないという尚枝のことを話しましたが、実は、摂食障害や分裂の子供達にも同じような感じを受けるのです。
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